vol.4


「この類君かわいい〜〜!!」


「でしょ!類って赤ちゃんのときからこんなにかわいいんだもん。神様も不公平なんだから。」





類がNYへ発った翌日、滋さんと桜子が遊びにきた。


類が仕事で遅かったりするときはほとんど来てくれる2人。


きっと類のことだからあたしを1人にするのが心配でこの2人を呼んでくれるんだと思う。



でも本当は時々そんな過保護に反抗したくなる自分がいる。



あたしは子供じゃない。


何もできないわけじゃない。


ただ・・・何も記憶がないだけ・・・




けれど記憶がなくたって友達はいるし、類だっている。


類がいれば幸せなのに、それでも過保護にする類はあたしに何かを隠してる。



あたしの愛を信じてくれてないみたいで・・・だから反抗したくなる。




あたしは類を愛してるんだと主張するために・・・






「ねぇ類君の小学生時代の写真とかは?」



滋さんは類の小学生時代の写真に興味をしめす。


だが、桜子は麗奈に聞こえないように滋の背中をたたいて呟く。




「バカ!!ダメですよ、幼稚舎以降の写真なんて!全部F4が写ってるに決まってるじゃないですか!」




すると滋は慌てて麗奈に言う。



「麗奈ちゃんごめん!!やっぱいいや。それよりお腹すいちゃった〜。ケーキとかある〜?」



「ケーキですか?ありますよ。ちょっと待っててください。」



そう言って部屋を出て行った麗奈。



それを見て緊張が解けたようにぐったりする滋と桜子。



「あ〜〜びっくりしたぁ〜〜もう焦ったよ〜〜!!」



「焦ったのはこっちです!!まったく!!あの時のこと忘れたんですか?!

 花沢さんがどれだけここまでするのに苦労したと思ってるんですか?!

 またあんなことになったら私たち殺されますよ!!」



「ごめん!!今度からちゃんと気をつける。」




滋は自分のうっかりしたミスに反省した。



「類君って今司のとこと仕事してんでしょ?!

 NYで会議をした後、日本で一緒に仕事するらしいよ。大丈夫かなぁ〜。」



「大丈夫ですよ。別に先輩も一緒に仕事をするわけじゃないんだし。

 会うなんてことないですよ。きっと・・・。」






先輩には笑っていてほしい・・・



あなたに悲しい顔なんて似合わない。



私がちゃんと笑えるようになったのはあなたのおかげだから。



私も花沢さんと同じだと思う。



きっと1人しかあの笑顔を取り戻せる人はいなくても



もう一度あなたの輝くような笑顔が見たい・・・







vol.5


俺の少し後に類がNYに到着したと連絡が入った。




類とは俺が記憶を失ってからはほとんど会っていない。



今回のことも親同士が進めていたプロジェクトを俺たちが引き継いだだけ。





別にお互いを避けてるわけじゃない。




俺と類との間には何か境界線がある。



子供の頃にはなかったそれ。




それを越えることはきっと許されない。



これが大人になるということなんだろうか。



だけどその境界線の先にあるものに興味はない。





もし俺の記憶がその奥にあるのならば話は別だが。









オフィスのドアが開くと、久しぶりに見る親友の姿。


「よぉ類。久しぶりだな。」


俺はイスから立ち上がり親友のもとへいく。



「ホント久しぶり。・・・元気?いろいろ順調そうだね。」


ソファーに座るよう促し、俺もその向かい側へ座った。



「まぁまぁだな。お前はどうだよ?」



「こっちも別に。」






お互いの近況報告なんてこのぐらい。



それ以上深いとこには立ち入らない。






すると類がテーブルの上の写真に気がついて手にとって見る。



「これ・・・お見合い写真?」



「・・・あぁ。ババアが持って来た。まぁ見合いなんてする気ねぇけどな。」



「・・・世間から見れば綺麗な人じゃん。もっと上を望んでるの?」



「お前が綺麗だなんて言うのはめずらしいな。じゃぁお前が見合いするか?っつっても女いるんだっけ。」



「・・・世間から見ればって言ったじゃん。それに他の女なんて興味ない。」



類は写真をテーブルに置いてどうでもよさそうに言う。






こいつが静以外の女を好きになるなんて思わなかった。



まさかその女と結婚するとも。





別に女には興味はない。



俺にとって女という存在は性欲のはけ口でしかないから。



ただ俺と同じく女に興味のなかったこいつが惚れた女がどういう奴なのかと思っただけ。







「お前をそこまで惚れさせる女か・・・一度お目にかかりてぇな。」






その瞬間、俺の言葉に類のまなざしが冷たくなったのを感じた。



が、すぐに小さく笑う。





「・・・司にはあげないよ・・・絶対。」





俺は今初めて少し境界線を越えたような気がする。



だがすぐに類の目が警告していた。






立ち入るな・・・と。





「・・・冗談に決まってんだろ。お前の女に興味なんてねぇよ。俺が女なんかに惚れるわけねぇし。」






「その言葉・・・忘れないでよね・・・」








vol.6


司が麗奈を見たいと言った時、身体が凍るような感覚だった。




麗奈を司に会わせたことはない。



結婚式も司だけは呼ばなかった。




司も麗奈もお互いを知らないのだから大丈夫なのかもしれない。




けれど俺の中のなにかが危険信号を鳴らす。



麗奈だって覚えてはいなくても何かを探してる。



司だって女に興味をもたないのは彼女がどこかに残ってるからに決まってる。



そんな2人を会わせたらどうなるか・・・










あの頃の麗奈は抜け殻だった。



誰が声をかけても揺さぶってもただただ外を眺めるだけ。




顔も青白く、手先も冷たい凍った人間のようだった。



俺は毎日見舞いに行った。







外は雪の降る夜・・・その日も彼女の病室を訪れた。




珍しく彼女はテレビを見ていた。



何のテレビかと思って見てみると、それは旅行番組だった。




映っている場所は・・・NY。






そしてセントラルパークの映像が映った時、




彼女は俺の方を初めて見て、涙を流しながら言ったんだ。





「類・・・」と。








俺はすぐに駆け寄って彼女を抱きしめながら言った。





NYで言った言葉と同じことを。






「今度は俺がお前を支える。」





そのまま気を失った彼女はその時のことも覚えていない。




その日から彼女はだんだん元気を取り戻し、俺の事を愛してくれてる。




それをどうしても信じれない俺はきっと彼女の過去に囚われている。




だけどあの日誓ったんだ。





俺は彼女に全てを捧げる・・・と。






だから麗奈は譲れないんだ・・・






彼女は俺の全てだから・・・







NOVEL