vol.10
仕事の電話を切った後、類に少し遅れて到着ゲートを出た。
マスコミが来てないことにホっとしたが、周りの客はなんだか興奮気味。
なにかあるのかと周りを少し見渡す。
するとそこには色白で小柄な女を幸せそうに抱き上げてキスをしている類がいた。
類の頭で顔は見えないが、あれがあいつの結婚した相手だとすぐわかった。
どんな奴かなんていつもの俺なら気にしないが、
やはり類の惚れた女ということでどんな女なのかと少し気になった。
そして2人の唇が離れてやっと女の顔が見れた。
力強い大きな瞳に漆黒の髪、薄いピンク色の潤った唇に雪のような白い肌。
世間一般から見ればそうとうな美人。
今までそんな奴らにたくさん会ってきたが、なぜかあの女だけは特別な感じがした。
なぜだか類に微笑むあの女が憎い。
無意識のうちに俺の方をむいてくれないかと願っていた。
なんだか変だ・・・
どうしてもしっくりこない。
この気持ちがどうしてもうっとうしくて、すぐにその場を去った。
この時が今まで忘れていた感情が戻ろうとしている瞬間だったんだと思う。
それに気付いてしまった時、俺は地獄に堕ちてもいい。
キスの後、類がとても優しく微笑んだからこの2週間の不安が少しずつ消えた。
やっぱりあたしには類が必要なんだと実感した。
「もう置いて行かないで。」
そう言って類に微笑み返した時、視界の端のほうに長身の男の人が見えた。
・・・道明寺司・・・
彼はあたし達のほうを見ずに行ってしまう。
しゃべったことすらないのになんだか特別な感じがした。
なぜだか類と一緒にいることが後ろめたくなる。
その時あたしは無意識のうちに行かないでと願っていた。
なんでかな・・・追いかけたいと思ってしまった。
だけどそんな事を思う自分が嫌で、早く家に帰ろうと類に言った。
この時が今まで私が拒み続けてきた感情の溢れ出した瞬間だったんだと思う。
それに気付いてしまった時、あたしは地獄へ堕ちるの。
vol.11
麗奈の最近の様子が変だ。
なんだか考え事をしてるような悩んでいるようなそんな感じ。
散歩しようと言って手を繋いでも、なんだか手を繋いでる感覚にはなれない。
彼女の心がどこかへいっているみたいだ・・・
もしかして・・・
いや、そんなはずはない。
彼女とあいつは会った事なんてないんだから。
きっといつもの情緒不安定だ・・・
俺は自分にそう言い聞かせる。
そうしないと自分のほうが不安で押しつぶされてしまいそうだから・・・
今日も早く帰るためにさっさと仕事を終わらそうと机の上の書類を片付け始めた。
今日はこの後、ここで司と打ち合わせがある。
その書類に目を通そうと資料を探すがどこにもない。
よく考えたら昨日家に持ち帰ったまま書斎に置きっぱなしであることに気がついた。
もう司が来る時間だ。
けれどあの書類がなければ意味がない。
秘書に連絡をして持ってきてもらおうと電話を手に取る。
だがつくしの様子が気になった。
今もやっぱり家で不安になっているのだろうか・・・
俺が取りに行けば少しでもつくしに会える・・・
今は少しでも一緒にいてやりたい・・・
俺は秘書にちょっと出かけてくるとだけ言って車を呼んだ。
「類様?!!もうすぐ道明寺様がいらっしゃる時間ですが?!!」
秘書が何か言ってるのを無視して車に乗り込んだ。
俺は後からこの時のことを心底後悔する。
vol.12
あの日から彼の横顔が忘れられない。
自分でもなぜかわからないの。
ただ・・・彼にもう一度会いたいと思ってしまう自分がいる。
何かがかわる気がするから・・・
今日も何をしてても彼の横顔を思い出してしまう。
気分を変えようと部屋の掃除をすることにした。
使用人の人達がやってくれるんだけど、なんだか自分でやらないと落ち着かない。
いつもそんなあたしを見て類は「変わらない」と笑って言う。
前のあたし・・・前のあたしってなんだろう・・・
あ〜もうそんなことばっかり考えてたらダメ!!
類の書斎も少し整頓してあげようかなと思い、机の上の膨大な書類をそろえていると、
今日の日付で重要資料と書いてある書類の束を見つけた。
類の仕事のことはわからないけれど、きっと今日必要なものってことはわかる。
いいことを思いついた!!
前々から類の仕事をしている時の姿が見たいと思ってたから、
この書類を届けるついでに少し見てみようかと考えた。
きっとそんな類を見ればこのモヤモヤも晴れるわ!!
あたしは早速車を用意してもらい、少しOL気分を味わうため
ピシッとしたスーツに着替え、書類を片手に社に向かった。
また類はビックリするかな?!
楽しみ〜〜!!!
「おい、類はまだかよ?!」
俺は時間通りに訪ねたのに、類は外出していると言う。
何やってんだ、類のやつ。
俺様を待たせるなんていい度胸してるじゃねーか。
帰ってきたらただじゃおかねぇ。
俺はしかたなく部屋を見渡していると、類のデスクに置いてある写真立てが目に入った。
これはこの前見た類の女・・・
あの日から俺の中でこいつの顔が離れない。
この女はなぜ俺にこんな感情を与えるんだ・・・?!
写真立てに見入っていると、ふいにドアをノックする音が聞こえた。
コンコン・・・
類かと思ってドアのほうへズンズン歩いていき、勢い良くドアを開けた。
「類!!てめぇどこ行って・・・」
NOVEL