赤い糸が繋がるとき









vol.16


「じゃぁ・・・あんたも記憶がないのか?!」





「あんたもって・・・道明寺さんも・・・?!」




あたしは自分の記憶喪失についてだいたい話した。



けれどこの人もあたしと同じ記憶喪失だったなんて・・・






「なんかうちの会社に恨みを持ってる奴に刺されたんだよ。

 そん時に大事にしてた女を忘れたらしい。まぁ今はどうでもいいんだけどよ。」







『どうでもいい』・・・







彼のその一言になぜか胸が痛んだ。




自分の記憶なのにどうしてそんなことが言えるのだろうか。




忘れられた相手の人はきっと辛くて辛くて毎日が地獄のような日々だっただろうに・・・






なんだかあたしは無性に苛立った。




いや、苛立ったというよりもその子に感情移入したように悲しくなった。








「どうしてあきらめるの・・・?!あきらめないでよ・・・きっとその人はあなたの事待ってるよ。」






「・・・なんであんたが泣くんだよ・・・」







あたしはなぜだか涙が出てきた。





道明寺さんは困惑した表情を浮かべながらもそっとあたしの涙を拭ってくれようとしたその時、







「麗奈様、類様からお電話です!!」







安藤さんが息を切らしながら部屋に入ってきてあたしに携帯を差し出した。





あたしはハッとして我に返り、自分で涙を拭いながら電話に出た。







泣いてることがバレてはダメ。



類にこれ以上心配をかけてはいけない。








「もしもし、類?・・・なんであたしがここにいることがわかったの?!」




「だって今俺は家にいるから。書類届けにきてくれたんでしょ?すれ違ったみたいだね。」






なんだか類の口調が少し恐いのは気のせいなのかな・・・







「今からそっちに戻るから、入り口で待っててよ。」




「・・・入り口?!なんで?」




「麗奈に出迎えてもらいたいから。いいでしょ?」




「う〜ん・・・わかった。待ってる。」




「ありがと。麗奈・・・愛してるよ。・・・麗奈は?」






類はあたしと2人っきりの時はこういうこと聞くけど、




誰かがいる前ではこんなこと言わない。








「・・・類、どうかしたの?」




「ううん、別に。最近の麗奈が俺から離れていきそうで心配なんだよ。この不安を取り除いてよ。」






類が不安・・・そんなことあるんだ・・・




自分ばっかり不安になってるんじゃないんだ・・・







「ごめんね、類。最近あたしなんだか変なんだ。

 あたしがこんなんだから類まで不安にさせちゃったんだね。」





「ううん、気にしなくていいよ。だから俺から離れていかないで。」




「当たり前だよ!!類から離れたりしないから。

 類・・・類のこと愛してるから。」








麗奈は司がいることを気に留めながらもその言葉を言った。





なぜだか少しだけ後ろめたさを残しながら・・・







そして司もまたその言葉に胸がしめつけられるような思いがした。










ただ1人・・・類だけは電話の向こうで微笑んでいた。












vol.17


「類といっつもそんなこと言ってるのかよ?!」






類からの電話の後、少し沈黙が続いた。





麗奈も司もなぜか気まずくて言葉をかけるのをためらっていたが司がぶっきらぼうに聞いた。




あきらかに聞きたくもないというような顔をしていたが。






麗奈は顔を赤くさせて顔をそらしながら内心あせっていた。




なぜか答えたくなかった。





「・・・そんなことないです。あっあたし類を入り口まで迎えに行かなくちゃいけないので

 失礼します。どうぞくつろいでいてください。」













あたしやっぱり変だ・・・





彼の仕草や言葉にいちいちビクビクしてる自分がいる・・・





彼の記憶障害に対してとても悲しくなったり、類とのことを聞かれるとどう答えていいかわからない。





このままの状態で類に会うのはなぜかいけない気がする。





別にやましいことはなにもないのに・・・いや、もしかしたらいけないことをしているのかもしれない。





自分では気付かないところであたしの記憶に何か変化があるのかもしれない。







・・・ん?!







あたしの記憶・・・まさか・・・でもそんなことあるはずがないよ。





あたしと道明寺さんとの記憶が関係あるだなんてありえない・・・













どうして俺はあの女と類のことが気になるんだ?!





俺にはそんなもの関係ないはずなのに・・・





なぜかあの女の口から類の話は聞きたくない。





もしかしたら・・・いやそんなことあるはずがねぇ。







俺とあの女との記憶が関係あるだなんてありえねぇ・・・













けれど無意識のうちにそのまさかを2人は期待していた。





それは2人に目覚めた感情がそうさせた。








恋・・・そんな青春のような淡いものではない。







それは自己中心的な大人の愛・・・













vol.18


あたしはとりあえず類を出迎えに入り口に向かった。



あたしが着いた時、ちょうど類を乗せた車が到着した。




車から降りて来た類はなんだかちょっと雰囲気が違う・・・




あの透き通った瞳がアタシの考えている事を見透かすよう。





「類、ごめんね勝手なことして。でも大事だと思ったからすぐに持ってきちゃったの。」




「気にしなくていいよ。ありがとう。でもその格好どうしたの?なんかキャリアウーマンって感じ。」





「そう?!ちょっとOL気分を味わおうと思って。なんか気がひきしまるね!!」




類はそんなあたしを見てクスクスと笑う。





よかった・・・いつもの類だ・・・







類はあたしの肩を抱いて会社に入っていく。




「ちょ、ちょっと?!みんなが見てるのに!!」




慌てて離れようとするが類は腕をはずそうとしない。



「だってみんなに紹介するいい機会でしょ。こうしておけば麗奈がまた来ても

 ちゃんとした扱いをしてくれるだろうし。それに・・・」





急に類がニコっと笑った。



いや、顔は笑ってるけど口調はすごく冷たくなったような気がした。




「司に改めて俺の妻ですって紹介しないと。」











類は司に会うやいなやすぐに麗奈を紹介した。




「司、これが俺の愛妻の麗奈だよ。まぁさっきまで一緒にいたから色々話したと思うけど。」





「あっあぁ、お前が静以外の奴と結婚したって聞いた時は驚いたけどよ。」




「俺の静に対しての感情は恋愛とかとはなんかちがったんだよ。だけど麗奈に対しては

 誰にも負けないぐらい愛してるって言えるよ。」




類は麗奈に笑顔をむける。



麗奈は頬を赤く染めて俯いていた。







「俺はお前らの惚気を聞きにきたわけじゃねぇんだよ。さっさと仕事やるぞ。」







これ以上二人の話は聞きたくて話をさえぎった。





なんで俺はこんなにも苛立ってるんだ・・・




バカバカしい・・・




どーせこの女だって類の資産やルックスに惚れただけだ。




あまり人に自分を出さない類にここまで愛されれば




誰でもコロっといくに決まってる。




女なんて所詮そんなもんだ。




俺はそんなふうに心の中で吐き捨てた。






いや・・・そう思いたかった。










「それじゃぁ麗奈、今から仕事の話するからごめんね。

 下に車待たせてあるからそれで家に帰って大人しく待ってて。」




類は麗奈の頬に軽くキスをすると頭をなでた。




「じゃぁお仕事頑張ってね。道明寺さんも・・・今度は家にいらっしゃってください。」







なぜだろう・・・






彼に『さようなら』とは言えなかった。






NOVEL