Black tie




「ネクタイ・・・まがってますよ。」


この言葉は自分へのサイン。そう、私が男性を落とす時の。



私の本気の恋愛は一度だけ。
ひねくれた愛情表現だったけれど、本気で好きだった。

でも今はいい思い出。
その人は私の大好きな人と結婚をして、2人ともとても幸せそう。
ケンカがたえない2人だけれど、密かに私の理想の2人。

私も2人のようになりたいと願う。

だから毎夜パーティー会場へおもむき、ターゲットを見つけるとさっきの言葉。

でもこれは本当に私が望んでいることじゃない。

私の心には悪魔がやどっているけれど、願うことはそれから許された領域。


本当は恋をしたい。


彼のように。彼女のように。溺れるような恋が。


けれど悪魔はこれを侵食出来ないかわりに覆い隠す。
だから私はパーティー会場におもむいて、同じことの繰り返し。

今日こそはと思っていたのに、やっぱり来てしまった。

時々耳に届く声。


「三条桜子よ。あの人、黒岩グループの御曹司とデキてるって噂よ。」

「あら、私は大物俳優と付き合ってるって聞いたわよ。」

「遊んでるだけなのよ。ちょっとかわいいからってけがらわしい。」


・・・・昔はこんな会話聞いてもただのひがみとしか感じられなくて鼻で笑っていた。
だけど今は心が痛い。

陰口を言われているからじゃない。

私のこれまでの罪を一から刻み込まれるようで痛い。

かさぶたになんてならない。一生血を流し続ける傷に。




私がシャンパンを飲んでいると、一人の男性が声をかけてきた。
その人はさっき名前が出た黒岩グループの御曹司。
半年ほど前のパーティーで出会って1ヶ月ぐらい食事をしたりしたけれど、
自意識過剰でしつこいから切り捨てた男の一人。


「久しぶりだね、桜子ちゃん。ずっと電話とか出てくれないけど、どうしたの?」


うっとうしい・・・着信拒否されてるってわかってるくせに、この質問。


「ご無沙汰しております。別に何もありませんわ。
私たちおつきあいをしていたわけではないですから、あまり親しくして
周りに誤解されても困りますから。それでは私は失礼します。」

すぐに立ち去ろうとしたのに、急に痛いくらいに腕を掴まれた。


「何言ってんの?!オレは女にもてあそばれるような男じゃねーんだよ。
これからも前みたいなことしようぜ。」


耳元でささやかれる言葉に全身が拒否反応を起こす。


「ちょっと痛い!!離してよ!!私はあんたみたいな男の相手をしてるヒマなんてないのよ!!」

その瞬間、男は私を殴ろうとした。
私はとっさに目をつむる。


これは私への罰。

もしこれで傷が癒えるのならば、素直に受けようと思った。


だが、いっこうに痛みはおとずれない。
おそるおそる目を開けてみた。


「レディーに手を出すなんて、ロクな男じゃないな。
桜子、お前にしてはめずらしい選択ミスだな。」

「・・・美作さん・・・」

「お前誰だよ?!離せ!!」
男は美作さんにつかまれた手を振りほどこうとするが、ビクともしない。


「オレ?オレは美作あきら。この世界でF4を知らないとは言わせないぜ。
桜子はオレらの仲間。一つ忠告しといてやるよ。
桜子は道明寺司が溺愛してる妻の親友の一人でさ、桜子に何かあれば
絶対にかけつけてくる。するとそれを心配して司までもが動く。
そうなったらあんたは道明寺財閥を敵にまわしたことになるんだぜ。
そんなことをしてお前ん家大丈夫か?!」


男は『道明寺』という言葉におじけづいたのだろう。
青ざめた顔をして、すぐに立ち去って行った。


「私としたことが、ホント選択ミスでした。どうもありがとうございます。」

「まぁオレはあっちのことも助けたことになるんだけどさ。」笑いながら言う彼。

「でも、たぶん先輩は駆けつけてくるより、相手に殴り込みだと思いますけどね。」

「たぶん・・・な。そんで司が危ないことをするなとか言って怒って言い合いになって、
オレらが止めに入るんだ。」

いい加減にしてほしいよとあきれて言う彼は、
きっと私と同じように密かに2人を理想としているのだろう。


「美作さん、今日はマダムとデートじゃないんですか?」

すると彼は自嘲気味に笑う。

「最近さ、なんかむなしくなるんだよ。昔はマダムとの恋も
純愛だと思ってたけど、本当にほしいものはそんなんじゃないんだよな。」




きっと彼にも悪魔がやどっている。そして私と同じような傷を持っているのだろう。


「桜子、お前ホントはいい奴なんだから、本気の恋でも探してみたら?
まぁオレもだけどさ。」






悪魔と天使じゃ結ばれない。だけど、悪魔と悪魔ならばどうだろう。

2人の傷が合わされば、そこは2人が愛し合うための傷になる。

ならば悪魔との決別は中止。

あの2人が天使ならば、私と彼は悪魔。

ついに願いまでもが侵食された。



彼と地獄に溺れたい。






「美作さん、ネクタイ・・・・まがってますよ。」


この言葉は自分へのサイン。

そう、私が彼を溺れさせるための。



〜Fin〜




あとがき。



きゃーーーごめんなさいーーーー!!!あきらと桜子を悪魔に
させてしまってすみません。汗”(><’
でもワタクシ桜子大好きなんですよぉ!!同じニオイがするってゆーか・・・爆”
最初、この題名でつかつくを書こうと思ってたんですけど、どうしても思い浮かばず。
でもどうしてもこの題名で何か書きたくて、そしたら桜子はいいんじゃないの?!って
感じで書いちゃいました。桜子ファンならびにあきらファンの皆様、許してくださーい!!汗”





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