Dry wine






バレンタインなんて大嫌い。


こういうものは渡せる相手がいない人にとっては悪魔のイベント。


恋人がいる人でも、直に渡せないんじゃ同じ。



もちろん・・・あたしにとっても悪魔なイベント。



正確に言うと、数日前までは楽しみにしてたイベント。








「つくし・・・愛してる」



毎晩寝る前には必ず言ってくれる愛の言葉を聞きながら、彼の胸に顔を埋める。


彼の手があたしの背中を行ったり来たりしてる時、ふと思い出したように彼が言った。


「俺明日から1ヶ月ドイツに出張だから。俺がいない間浮気すんじゃねーぞ。

道明寺若夫人は明るくて素敵な方だって評判だからよ。」


そう言いながら彼はあたしの首筋にキスをする。




・・・1ヶ月もドイツに出張?!!


明後日はどういう日かわかってんの?!


恋人達の一大イベントであるバレンタインデーだよ?!


仕事だからしょうがないのかもしれないけど・・・


ちょっとぐらい気にしなさいよ!!!




「ねっねぇ、明後日はどういう日か知ってる?」


あたしはいちお聞いてみた。


「明後日・・・?海の日とか?」




季節外れもはなはだしい・・・いや、海の日を知ってたことだけでも褒めるべき?!


ってそんなことじゃなくて・・・



「ほら!甘いものとか・・・!!」


突然彼はあたしの口を塞ぐ。



「ごちゃごちゃうるせーな。1ヶ月も会えないんだから、1ヶ月分ヤラねぇともたねぇよ。」





・・・野獣だ・・・



あたしだって1ヶ月会えないなんて寂しいけど、今は明後日のバレンタインのことで・・・




だけど彼の情熱的なキスには未だに慣れなくて、結局最後には彼の手に落ちてしまう。





あ〜ぁ、せっかくのバレンタインデーなのに家で一人なのか・・・


せっかくこのあたしが手作りチョコをあげようと思ってたのに。


せっかくこのあたしが彼への愛を囁こうと思ってたのに。


男というものはなんでこうも乙女心をわかってないのかねぇ・・・







「道明寺さんもその言葉だけは先輩に言われたくないと思いますけどね。」



なんでよ?!あたしは男心をわかってるつもりだけど?!



「その前に、なんで一人だからって私のところに来るんですか?!

今日はバレンタインデーなんですよ?!先輩が一人だからって私は一人とは限らないじゃないですか!」


「あれ?桜子にはバレンタインデーに一緒に過ごす人なんていたっけ?!」



あたしは家で一人じっとしているなんてことはできなくて、


桜子を呼び出して、外でお茶をしていた。



「失礼しちゃう!私にだってそういう人の1人や2人はいるんです。

だけど、寂しいから一緒に過ごしてほしいっていう人がここにいるから、

しかたなく先輩と一緒にいてあげてるんじゃないですか。」


「だっ誰も寂しいなんて言ってない!」



はいはいとめんどくさそうに返事をする桜子に反論しようとすると、


「先輩!出張先に何か送ればいいじゃないですか。

その届けられたものを見ればきっと道明寺さんも気付くんじゃないですか?!」




桜子・・・あんたって天才?!


そうか、そうすればあいつも気付くかも?!


だけどチョコをあげてもあいつは食べるのか?!


甘いモノ嫌いだしなぁ〜・・・その前に食べずに保存してそう・・・




桜子はあたしがどうしようか悩んでるのを察したのか、


「ワインとかどうですか?別にバレンタインはチョコって決まってるわけじゃないですし。

それにワインなら時間がたっても飲めるじゃないですか。」





桜子・・・あんたってホント天才!!


ワインならあいつも好きだし・・・よし!そうと決まればすぐに買いに行かなくちゃ!






そしてワインを選ぶこと2時間。


ワインにはさほど詳しくなく、薦められるがままに選んだが、


一つだけソムリエに頼んだことがある。




それは・・・白の辛口。




バレンタインには似合わないDry wine。


これはあたしからの些細なイジワル。


恋人同士のイベントを忘れてたんだもん。


sweetなんて言葉のものはあげないんだから。








ワインを買ってそのまま道明寺邸に戻ると、なぜか騒がしい気がする。



そしてリビングにいくと、そこにはいるはずのない人物が・・・



「お前どこ行ってたんだよ?!今日は何の日かわかってんだろ?!」




ちょっと待ってよ。なんで司がいるの?!1週間出張でしょ?!



「なんでここにいるの?!出張は?!・・・やっぱいい!言わないで!

聞いたらきっと頭痛くなるから・・・」




絶対に無理言って帰って来たに決まってる!!


あ〜〜〜もうバカ!!




あたしがガックリうなだれてると、彼はあたしの前に来て手を出す。


「チョコ。」



・・・は?



「チョコは?今日はバレンタインだから俺様へのチョコは?」


「えっチョコ?!チョコなんてないよ。だって司いないと思ってたから。」



すると彼の顔がみるみる険しくなる。


「まさか他の男にあげたんじゃねぇだろうなぁ?!」



なんでそういう発想になるかなぁ・・・





ちょうどその時、タマさんがリビングに入って来た。


「つくし、旦那様からお電話だよ。」





・・・お義父様?!なんの用かな?





あたしは受話器をうけとって話し出した。



「あっつくしさん?!そっちに司がいると思うんだが、

明日の早朝の便で帰ってくるように言っておいてくれ。」


「はぁ・・・あの、やっぱり無理矢理帰ってきたんですか?」


あたしがバツが悪そうに言うと、お義父様は苦笑した。



「私が今日はバレンタインだからつくしさんは誰にチョコをあげるんだろうなって

言ったら、急に席を立って行ってしまったんだよ。まったく自分の立場をわかってるのかねぇ。

とにかくそういうことだから、司のこと頼むよ。それじゃぁ。」


「・・・はい、どうもすみませんでした・・・」




電話を切った後、おもいっきり司を睨みつけた。


「あんたってホントにバカ!!仕事ほっぽりだして来るようなことじゃないでしょ!!

さっさと戻りなさいよね!!」


「なんでだよ。親父は明日でいいって言ったんだろ?!だったらいいじゃねぇか。

お前だって一緒に過ごしたかったくせに。素直になれ。」




あたしは結婚相手を間違えたのかしら・・・


もうちょっと大人だと思ってたのに・・・




「そんなわけない!!あたしはあんたがいなくてせいせいしてしてたわよ!」


「ほぉ〜じゃぁ今まで何してたんだよ?」


「べっ別に桜子とお茶してただけよ。」


「じゃぁ今から三条に電話して、今日のお前の様子でも聞こうかな。」



その言葉に一瞬動揺したあたしを彼が見逃す訳もなく、意地悪そうに笑って抱きしめてきた。




「俺はお前とずっと一緒にいてぇんだけど。」




・・・こういう時だけホントずるい・・・



いっつもこうやってあたしを黙らせるんだから・・・




「で、チョコは?」


「だからチョコは用意してないってば。」


「お前なぁ〜ちゃんと用意しとけよ。あ〜もういい。

こうなったら俺がほしいもんもらうから。」


そう言われてソファーに組みしかれるあたし。





待って待って?!!



この前一ヶ月分って言って、人を気絶させるまでやったけど?!!




「つくし・・・愛してる。」







あ〜ぁバレンタインって女性が男性になにかをあげたりするものなのに


あたしがもらっちゃったよ・・・



ホントは一緒に過ごしたかった。



ホントは帰ってきてほしかった。



ホントはその言葉を聞きたかった。



全部あたしが密かに望んでいた事。



結局最後にはあたしがほしいものをくれちゃうんだね。


今日ぐらいあたしからも何かあげたかったんだけどな。



だからとりあえずは・・・愛の言葉を。



「司・・・愛してる。」












翌朝、司は再びドイツへ発った。



あたしの手元に残ったのはDry wine。



結局渡すの忘れちゃったよ。


だけどこの後送ることにしたの。




バレンタインには似合わない辛口。


だけどこれには意味があるの。




今年のバレンタインは甘すぎたから


これ以上sweetだとホワイトデイがさめちゃいそうだから。




ホワイトデイもsweetなものをもらいたいじゃない。







〜Fin〜





あとがき。

読んだことあるよって?!

えぇ、恐れ多くもゆっこ様企画のVD企画で掲載させていただいたものでございます。

こんなものを献上した私はほんとのバカでございます。

ちょっと書き直そうかなと思いましたが、

そんな時間も労力もなくやっぱりそのままUP。笑”

こんなものしか書けないんだもーん!!!涙”(><)