vol.37
心の中でガッツポーズをしていると、ふいに声をかけられた。
「望月さん。私、木下って言うの。よろしくね。」
「私は酒井って言うの。わからないことはなんでも聞いて。」
あたしに声をかけてきたのはたぶん秘書室のお局様であろう2人。
ばっちりメイクでまさに秘書!!って感じの2人は小声で言う。
「これはルールみたいなものなんだけど、司様ってとても素敵じゃない?!
あれだけの人ってほとんどいないから女性社員の憧れの的なのよね。
だから抜け駆けはだめよ。あと抜け駆けしてる人を見つけたらすぐ教えてちょうだい。」
・・・どうやら忠告みたい。
やっぱり司はモテるんだ。
もし付き合ってる事がバレたらあたし抹殺されちゃうかな。
いろいろ考えながらも会議の書類とスケジュール表を持って司の部屋へ向かった。
ドアをノックすると司の声が聞こえたので中に入る。
机の上には膨大な書類の山とノートパソコン。
そこに座っている司は青年実業家でやっぱり別人のようだった。
「そんなにかっこいいか、望月瑠璃クン。」
人の考えてることを意地悪そうに笑って言うので悔しくなって言い返す。
「いいえ。ちゃんと仕事ができる方なのかと考えていただけです。」
このやろう・・・と青筋をたてる司に会議の書類を差し出しながら勝ち誇ったように言ってやる。
すると急に首をひきよせられ、司の顔が至近距離にくる。
「俺の女は『宮川つくし』で『望月瑠璃』じゃない。だから口には気をつけろ。
あと男性社員に声をかけられても仲良くすんな。」
めちゃくちゃな事を言う司に笑いがこみ上げてくる。
「私は司様の女じゃないんだから、誰と仲良くしても関係ないんじゃないですか?」
その言葉を言った途端キスをされた。
「うるせぇよ。これは命令だ。」
そんな命令あるかぁ!!!
「公私混同したらすぐやめるって言わなかったっけ?!まったく初日からこんなんじゃ先が思いやられるわ・・・。
それでは司様、お仕事で御用の時だけおよび下さいね。」
そう言って部屋を出るとすぐに周りに人がいなかったかチェックした。
いなかったことを確認するとほっとため息をついて秘書室へ戻る。
毎日こんなんだといつバレるかわかんないわ・・・
やっぱり不安になるつくしだった。
vol.38
それから順調に仕事を覚えて1ヶ月経った頃。
「明後日の司様のバースデーパーティーでの司様のパートナーって誰かしらねぇ。」
会議用の資料のコピーをしていると、木下さんと酒井さんの話が聞こえた。
聞こえたというより勝手にあたしも会話に含まれているのだけれど・・・
「やっぱり自分が主役のパーティーにパートナーがいないっていうのはおかしいじゃない?!
望月さんって一度も司様とパーティーとかに出た事ないでしょ?!だから望月さんではないしぃ〜。」
出たよ・・・お局様のイヤミ。
言っとくけどパーティーとかには『宮川つくし』として出てるんですーー!!
心の中でそう思いながらも顔には出さず、
「どこかのご令嬢じゃないですか?」
と言ってみると、まだまだねっと言わんばかりに鼻で笑われた。
「司様は今までそういう人とパーティーに出席したことなんてないのよ。
秘書としか出ないの。やっぱり信頼されてるのよ、私たち!!」
満足そうに笑うお局様を尻目にため息をつく。
その司様の明後日のパートナーは令嬢なんですよ〜〜と心の中で言ってみるが、
彼女達が気付くはずもなく目線を廊下にうつすとちょうどそこにいた人物と目が合い動揺してしまった。
その人物も少し照れたような困ったような顔をして行ってしまった。
するとすかさずお局様が首をつっこんでくる。
「何〜?!昨日までは毎日のように神野さんが来てしゃべってたのに、
今日はどうしたわけ?!あっまさか告られちゃったとか?!」
その言葉にますます顔が赤くなるつくしを見て確信する。
「いいわよね〜若いって。それに神野さんってとってもイイ人って評判よぉ!!
海外事業部でエリートだし、イイ所のお坊ちゃんみたいだし。
まぁ望月さんには彼氏がいるけど、でも神野さんもいいじゃない!!
どうせ彼氏は普通の人なんでしょ?!社内でも彼があなたのこと好きなのは結構噂よ?!
今の普通の彼氏より、いっそのこと彼にしたら?!」
くそぅ・・・あんた達がそうやって騒ぐから噂になったんでしょうが!!
昨日ホントに大変だったんだから!!
心の中でブツブツ文句を言っていると急に携帯が鳴る。
ディスプレイには桜子の文字。
失礼しますと言って携帯を持って休憩室へ行ってから電話をとった。
vol.39
「もしもし?」
「あっ先輩?!明後日の道明寺さんのバースデーパーティーで道明寺さんのパートナーやるんですよね?!」
情報が伝わるのが早いよ・・・。
「そうだけど、ホントはマズイと思うんだよね〜。はぁ・・・どうしてこうなっちゃったんだろ・・・」
「それは先輩が悪いと思いますよ。鈍感すぎるんです。」
「鈍感・・・でもホントに相手の気持ち知らなかったんだもん・・・って何でこのこと知ってんのよ?!!」
「昨日いつものメンバーで飲んでる時に美作さんの携帯に道明寺さんからかかってきて、
すっごい不機嫌な声で一方的に話したあげく、最後は上機嫌で切っちゃったんです。」
うぅ・・・あのバカ!!
あんなこと知られたくなかったのにぃ〜〜〜!!!
それは昨日のこと。
会議が終わった後、片付けをしていた時に事は起こった。
「望月さん、ちょっといい?」
声をかけてきたのは最近よく話す神野さん。
彼も今の会議に出席してた1人。
「はい、なんですか?」
「俺さ、望月さんのこと好きなんだ。だから付き合ってほしい。」
・・・えぇ!!なんだってぇ?!!
ウソ!そんなの全然知らなかったよ〜〜〜!!!
驚きで目を見開いて顔を真っ赤にしているあたしの右手をとって薬指の指輪に触れる。
・・・この人あたしに彼氏がいるってことわかっててこんなこと言ってる・・・?!
そう考えていると急に腕を強く引っ張られて抱きしめられた。
「本気で望月さんの事が好きなんです。誰よりも幸せにする自信があるんだ。」
すごく真剣さが伝わってくる・・・。
でもあたしはそれに応えることはできないから・・・。
必死に離れようともがいてみたが、やはり相手は男なのでビクともしない。
そしてだんだん顔が近づいて来て唇と唇が重なろうとした瞬間。
「ちょっ・・・いや!やだ!!」
NOVEL