vol.55
三条桜子と別れた後、俺は家に帰る気になれなくてただただ走り続けた。
あの女をどうにかしなければ・・・くそっなんなんだ、あの女!!!
わかったような事言いやがって・・・なんで俺もこんなに乱れてんだよ!!
落ち着け・・・とにかく今はあの女にかまってる暇はないんだ。
会長・・・いや父さんが結婚を許しているのは今日の事で確信した。
だが最後の条件に俺を使うなんて何考えてんだ。
まぁさしずめこれを機につくし離れでもしろってことだろうが
父さんが考えてるような感情じゃないんだよ。
まぁ俺が交渉に応じなければ契約なんて成立しないが、
あいつがそれで黙っているとは思えない・・・
だから潰してやるよ・・・二度と俺にむかってこれないように・・・
俺のものに手をだせないように・・・
無意識のうちに俺はつくしのマンションの近くまで来ていた。
きっとその部屋の主はいないだろうが、なんでもいいからあいつのものに囲まれていたい気分だった。
マンションの駐車場に車を止めようとした時、
向こうのほうからトボトボ歩いてくる人物が目に入った。
トレンチコートを着ているが、その下からきらびやかなドレスが見え隠れしていて、すぐに誰だかわかる。
俺は急いで車を止めて彼女に駆け寄った。
「つくし!!お前なんでそんな格好で歩いてんだ?!
いつも言ってるが、自分の立場を考えろ!!なんで車じゃねーんだよ?!」
つくしはとっさに目をこすって笑いながら言った。
「ごめん、歩きたい気分だったからそのまま道明寺家から歩いてきちゃった。
でもやっぱコートだけじゃ寒いね。すっかり冷えちゃったよ。
聖こそどうしたの?!桜子は?!あっとりあえず中入ろっか。」
わかりやすい奴・・・
俺は黙ってつくしの手をとってエレベーターに向かった。
つくしの手はすごく冷たくて、涙で濡れていた。
vol.56
「あ〜部屋の中はあったか〜い。暖冬、暖冬って言われてるけど
やっぱり寒いよね。まぁ宮川邸もここも季節を忘れるくらいあったかいけど。」
昔の家じゃ考えられないわ〜とさっきからどうでもいい話ばかりするつくし。
けれど瞳は笑っていなくて、今にも大粒の涙が溢れそうで、そんな姿が痛々しかった。
「そうそうそんな事はどうでもよくて、なんで聖はここにいるのよ?
桜子とはどうなったの?司・・・あいつは聖には他に好きな人がいるって言ってたけど
聖は桜子の事どう思ってるの?」
当然それは聞かれるだろうと予測していたが、
あの男がフォローしてくれていたのには驚いた。
・・・バカな奴。
いや・・・その余裕な行動が腹立たしい。
あくまでも自分が有利にたってると思ってるらしい。
まぁそこは否定はしない。
だけどいつかその行動に後悔させてやる。
俺はつくしが入れてくれたコーヒーを一口飲むとつくしを自分の隣に座るよう促した。
やっぱりつくしが入れてくれたコーヒーは美味い。
そんな事を思いながら、隣に座ったつくしに微笑む。
「三条さんとは何もない。道明寺が言ってる通り、俺には他に好きな奴がいる。
だから彼女の告白も断ったし、今家まで送ってきたとこ。これでいいか?」
淡々と述べられた言葉を一つ一つ理解していくつくし。
「ということは桜子は振られたってこと?!いや待てよ?!
その前に聖に好きな人がいるなんて初耳だよ!!!誰なの?!どこの令嬢?!!」
つくしは驚きのあまり聖の両肩をつかんでおもいっきり揺さぶる。
だが聖はすぐにその腕を振り払った。
そして右手でつくしの頬を優しくなでる。
「じゃぁさっきまで道明寺と何があったか教えろ。泣いてた理由は?」
急に自分の話題をふられて戸惑うつくし。
しかも今あまりふれられたくない話。
けれど聖の瞳は有無を言わせぬほどの力。
「ただ・・・ちょっと結婚の話とかが出てケンカしただけ。大したことじゃないの。」
つくしは悲しそうに笑った。
その表情が切なくて、聖は頬をなでていた右手をうなじにもっていくと
勢いよくつくしを引き寄せた。
唇が触れ合うまであと2センチほどの距離。
聖は熱い瞳でつくしを見つめる。
つくしはそんなふうに見つめられてだんだん顔が紅潮してくる。
「そんなに知りたいなら教えてやるよ。後悔してもしらねぇから。
俺の好きな奴は今俺の目の前にいる令嬢・・・」
NOVEL