vol.4

俺はあの日からNYで暮らしている。

今は大学に通いながら、親父の下で毎日分刻みのスケジュールで

寝る間も惜しんで働いている。

ねえちゃんにはまるでロボットみたいだと言われる。


・・・その通りだな・・・


あいつのいない世界に俺の感情なんて死んでるのと同じだ。


あいつと別れた時から俺はロボットになったんだ。



牧野・・・お前は今どこにいる?



お前は今幸せか?



俺は・・・やっぱりお前がいないとダメだ・・・




「司様、会長がお呼びです。」

秘書の村上が書斎に入ってきた。

「・・・分かった。すぐ行く。」

俺は牧野への想いをしまって、親父の書斎へ向かった。



「会長、何か?」

「あぁ、司。お前には明後日から日本の支社を任せる。」

「日本の支社ですか・・・わかりました。どれくらいの期間ですか?」

「それはわからない。新しいプロジェクトがどうなるかにもよるし、

お前自身にもよる。」

「・・・それはどういう意味ですか?」

「いや・・・別に深い意味はない。

ただ・・・後悔はするな。」

「はぁ・・?!とにかくわかりました。それでは帰国の準備がありますので失礼します。」

司が出て行った後、その人はNYの空を眺めながら呟いた。

「司・・・がんばれ。」







「あぁ〜〜緊張する〜〜やっぱやめればよかったよ〜〜!

しかもこのドレス自分に合ってない気がするし。あ〜〜もうど〜しよ〜!!」

「何言ってるんですか、すごくお似合いですよ。

相手の方もきっと釘付けですよ!」

「そっそうかなぁ〜・・・ありがとう佐々木さん。」


あたしは自分専属の使用人である佐々木さんにお礼を言った後、

両親とお見合い相手のいる部屋に向かった。

普通はホテルやレストランで行うものじゃないのかと考えたりもしたが、

今はそれどころではなく、心の中で葛藤していた。


このお見合いをすれば、きっと結婚が決まる。


だけどあたしは今でもあいつのこと・・・


ううん、あいつしか考えられない・・・


でもこれが現実・・・


これがあたしの人生なら受け入れるしかない。


一筋の涙が頬をつたったけれど、それを拭って目の前のあいつとの決別の扉を開けた・・・。




vol.5

「お待たせしました・・・・!!!」


次の瞬間、あたしは目の前にいる人物に見入っていた。



「・・・牧野?!!」


「・・・花沢類・・・」


2人とも驚きを隠せないでいた。

すると、


「つくし、前のお友達と連絡を一切取ってないみたいだね。

お前には一歩踏み出してほしいんだよ。また皆さんと一緒に英徳に行きなさい。」

「お父様・・・でも・・・」


あたしは涙が溢れそうなのを必死でこらえる。


「牧野、みんなすごく心配してるんだ。戻っておいで。」



花沢類の『戻っておいで』という言葉に、

こらえていた涙がせきを切ったように溢れ出した。




戻りたい・・・ずっと戻りたかった・・・



だけどあいつがいないじゃない・・・






ようやく落ち着いて気付いたら、部屋にはあたしと花沢類しかいなくて

しかも花沢類に抱き寄せられていた。


急に恥ずかしくなって、

「はっ花沢類?!あのっごめん!!急に泣き出して・・・え〜っと・・・う〜ん・・・

びっくり・・・だよね?!いや、あたしもびっくりなんだけど・・・」


あたしは一人で訳の分からないことをペラペラしゃべっていると、彼は笑い出す。

「・・・動揺するとよくしゃべる・・・ククッ・・・」


そう言って、お腹をかかえて笑い出した。

「・・・ちょっと笑い過ぎ・・・」


類がいつまでたっても笑ってるのでつくしがふくれていると、また優しく抱き寄せられた。


「本当にみんな心配してんだよ。すごい探したし。

けどそのまんまでいてくれたからうれしい。あっでもそのまんまじゃないね。

牧野すっごい綺麗になった。」


花沢類の優しい笑顔を見てあたしはまた涙が溢れる。

「ごめん・・・本当にありがとう。」


「あんたのごめんとありがとうは聞き飽きたって言ったじゃん。

それよりなんで牧野が宮川家の娘としてここにいるの??」


あたしは道明寺と別れた後のことをすべて話した。




「じゃぁ本当は『牧野つくし』じゃなくて、『宮川つくし』ってことね・・・。

宮川財閥に娘がいるとは聞いてたけど、

社交界デビューもしてないからあまり知られてないのか。

・・・日本以外のところにいるなんて考えなかったし、

宮川のほうで牧野の情報をシャットダウンしてたから、どんだけ探してもわかんなかったわけか。


「うん。お父様とお母様は普段はロンドンで過ごしてるから今まで知らなかったこととか、

離れていた時間を埋めるために、すぐロンドンに行って高校はあっちで卒業したの。

その間にいろいろ学んだよ。テーブルマナーとかお茶とかさ。

もちろん英語はもうペラペラよ!!今は白川学院大学で経営の勉強をしてるの。」


「へぇ〜ちゃんとお嬢できてるじゃん。で、社交界デビューはいつ?」


「たぶんもうすぐあたしのバースデーパーティーを盛大にひらくって

言ってたから、それかな。お父様とお母様は

たぶん花沢類にエスコート頼むつもりよ?!ごめんね。」


「別に牧野だったらいいよ。けどその前にみんなに会ったら?

司は・・・NYだけど、牧野がいなくなってからずっと心配してた。

司には無理かもしれないけど、他の奴らには会ってやって。

はい、これ俺の携帯の番号。牧野のも教えて。」



道明寺が心配してた?・・・なんで・・・



あなたの中にあたしはまだいるの・・・?



「・・・うん、はいこれ。」

「ありがと。それじゃぁ日にちとか決まったら電話するから。じゃぁね。」

「うん・・・花沢類!!ありがとう!!」



聞き飽きたってと言いながら彼は帰って行った。



花沢類・・・あたしはあなたに助けられてばかりだね・・・



ホント感謝してもしたりないよ






その頃、司は3年ぶりに東京の地を踏みしめていた。





vol.6

「司様、お車の用意ができておりますので、こちらへ。」

「あぁ。」



ここはあいつとの思い出がつまっている場所・・・・


ここに帰ってくる時はあいつを迎えに行くときだと思ってたのにな・・・・


その時、懐かしい声が聞こえてきた。


「よぉ司!!元気だったか?」

「きゃぁ〜司久しぶり〜!!」

「ちょっと滋さん!もう少し静かにしてくれませんか?!」

「桜子・・・滋が静かになんて無理に決まってんだろ。」


そこには総二郎、あきら、滋、桜子が迎えにきていた。


「おう、久しぶりだな。お前ら元気そうだな。」

「司、なんかお前見た目のバカっぽさが抜けたか?!」

「なんだと?!」

「や〜ん、司ますますイイ男になったね〜!!滋ちゃんホレ直しちゃうわ!!」

「滋さん、美作さんがちょっと不機嫌ですよ?!」

「もちろんあきらのほうがいいに決まってんじゃ〜ん!!」


滋とあきらの2人の間に漂う雰囲気に気がついた。

「何、お前ら付き合ってんの?」

「そうなんだよ、ラブラブっつーよりあきらが子守りしてる感じ。」

「ニッシーひどーい!!そんなことないよ〜ラブラブだもん!」

「滋・・・恥ずかしいからやめろ・・・」


こいつら変わってねぇな・・・けど、何かがちがうんだよ・・・


その何かは・・・手に入れたくても手にはいらないもの・・・




俺たちはそのまま道明寺邸に向かった。

「そーいえば類は?」

俺はワインを飲みながら聞いた。

「あぁ、類なら今日は見合いだってさ。

なんか絶対断ることを許されなかったらしくて、

『そろそろ覚悟決めなきゃね』って言ってた。」

「へ〜類君とうとう結婚かぁ〜。で、相手はどこのご令嬢??」


「んー確か宮川財閥会長の娘らしいんだけど、見た事ねぇよなー。

けど、噂だとめちゃくちゃ美人らしいんだよ。遊び人の俺として1回ぐらい拝まねぇとな。」


宮川財閥・・・1年ぐらい前にババアがなんか言ってたのを思い出す。


「たしかうちのババアも宮川との縁談をどうにかとりつけようとしてたな。」

「司のお母さんまでもが認めた女性なんて、あたしも見たい!!」

「私もどのくらいイイ女なのか拝見したいですね。」

「桜子・・・お前が言うとこえーよ。」

「よっしゃ!じゃぁ早速類に電話して誘ってもらおうぜ!」


そして総二郎は類に電話をかけた。



「おっ類か?!お前今日の見合いどーだったんだよ?!」

「・・・見合い・・・?!あぁ別に。ふつー。」

「ふつーって・・・。相手はどうだったか聞いてんだよ!」


「・・・めちゃくちゃ綺麗だよ。

今度その人のバースデーパーティーがあるらしいんだけど、

俺がエスコートすることになった。」

「マジで?!お前が?!!」


総二郎のあまりの声の大きさに周りで様子をうかがっていた奴らは受話器に近づいてきた。


「あっ総二郎達の話をしたら、そのパーティーの前に会いたいってさ。

だから来週時間つくって。」


類がそう言うと、総二郎はみんなに空いてる日を聞き出した。

「司は?」

「・・・俺は興味ねぇよ。」

「類、みんな来週の金曜日なら大丈夫そうだ。あと司は・・・行かないって。」


「ふ〜ん・・・わかった。司も来ないと後悔するのに・・・まぁいいや。

じゃぁ来週の金曜日にね。」

そう言って電話を切った。


「あの類が静でも牧野でもない女をエスコートするなんてなぁ〜・・・」


そう言うと、あきらがチラリと司のほうを見る。

司は視線を感じてあきらのほうを見たが、切ない表情で


俺はあいつ以外はいらない・・・と呟き、顔を伏せた。



その言葉に、みんなも司にはつくししかいないと思った・・・




その日の夜、花沢類から来週の金曜日の夜7時に彼の家に来るよう電話があった。


みんなはあたしに会ってどう思うだろう・・・


3年もだまったままで・・・やっぱりこわい。


でも一番こわいのは、あの頃の友達に会うことで


あいつへの想いが溢れそうでこわいの・・・


やっと夜に一人で泣くことがなくなったのに、


またあの想いが溢れたらあたしは壊れる・・・


忘れたことなんてない・・・いつもあたしの中にいる。


ねぇ道明寺・・・今日も月が綺麗だよ・・・あんたはどこでこの月を見てる?


同じ月を見てるのに、あたし達の距離は遠い。


まるで太陽と月のようだね。


でもあなたがあたしを照らしてくれるのなら、あたしはあなたがすぐに見つけられるように


真っ暗な中に輝く月になりたい・・・



バタン!!!


急に部屋のドアが開くと、スーツ姿の聖がズンズンと中に入ってきた。

「つくしっお前今日見合い・・・・」

つくしを見た聖は言葉を言いかけてやめ、優しくつくしを抱き寄せた。


「・・・お前また泣いてたのか・・・思い出したのか?

一人で泣くなって言ってんだろ。」

あたしはいつの間にか泣いていたことに気がついた。

そんなあたしに聖は額にそっとキスをし、親指で涙を拭ってくれた。


「ごめん・・・月を見てたらなんだか抑えきれなくて・・・

で、何?さっき言いかけてたこと。」

あたしは聖の胸に顔を埋めながら聞いた。


「あっあぁそうだ。お前今日見合いしたんだって?!

父さんが『お前もそろそろ身をかためろ』とか言うから、お前のこと聞いてびっくりした。

で、相手はどこのどいつだ?」


「あぁ相手はね、花沢類だったの。お父様もお母様もあたしのことを心配して、

今回花沢類に会わせてくれたんだと思う。それで来週の金曜に久しぶりにみんなと

会うことになって、それでさっき思い出してたのよ。

あっでも道明寺はいないから大丈夫よ。」


「・・・本当に大丈夫かよ・・・さっきまであんな状態だったのに。」

あたしは心配しないでと微笑む。


「けど、マジで花沢と結婚すんのかよ?!」

そう言った聖の顔はすねた子供のようで笑ってしまう。


「・・・シスコン。」と呟くと、聖は顔を真っ赤にして否定し、

話をそらすようにベッドに横になる。その行動にあたしはため息をついて、

「ちょっと!一緒に寝るつもり?!」と聞くと、

「もう自分の部屋行くのめんどくさい。」と言って目をつむった。

「この歳で兄妹一緒に寝る人なんていないわよ!」


結局文句を言いながらもあたしはベッドに横になり眠った・・・。





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