vol.7

「それじゃぁお父様と私はロンドンに帰るから。

クリスマスも一緒にいたいのだけれど、向こうで仕事があるの。

ごめんなさいね。でも、プレゼントはたくさん贈るから!!

今度はつくしのバースデーパーティーの日に帰ってくるから3週間後ぐらいね。

それじゃぁフライトの時間があるからもう行くわ。

聖、つくしのことよろしくね。」


今日からお父様とお母様はロンドンに帰る。

あたしは大学があるので、日本に残ることにした。

「わかってるよ。いってらっしゃい。」


聖はそう言って、お母様の頬に軽くキスをする。

1年のほとんどが海外暮らしだからこれはいつものこと。

あたしも同じようにすると、お父様とお母様は出発した。



「さてと、今日オレ休みなんだけど、どっか出かけるか?」

聖が手を上にあげて大きく伸びをしながら言った。


「う〜んそうだね。最近大学にしか行ってないし、どこ行く??」

「そーいえば来週昔のダチに会うんだろ?そん時に来て行く服でも買いに行くか。」

そう言うと、あたしの意見も聞かずに車に乗った。



リムジンの中では、

「ちょっと聖!!服なんていいわよ!もうありすぎて困ってるんだから。」

服はもういいと怒ってるあたしに、

「お前なぁ〜もう前とは違って超金持ちのお嬢様なんだぞ?!

なのにお前がほしがるものは全部安モンじゃねーか。

もっと身分相応なもんを見につけろ。じゃないと一緒にいる俺まで

格が下がっちまう。だからお父さんもお母さんも俺もお前のためを思って

いろいろプレゼントしてんだよ。」と、聖は意地悪そうに言った。


「あんた達のプレゼントはハンパじゃないのよぉーーーーー!!!!!」



あたしの叫び(?)もむなしく、高級感の漂うお店に連れてこられ、

着せ替え人形のようにたくさんの服を着せられ、

たくさん買い物をした後、疲れたのでカフェでお茶をすることにした。


どちらか一方だけでも十分目立つのに、まるで恋人同士のように

仲睦まじくしている2人の姿は、周りの人々の視線を集めた。


「ふぅ〜疲れたぁ〜。でもここのコーヒーはホントおいしい〜!

うちで飲むやつと全然かわんない。

それに、お店の名前が『field horsetail』ってとこがまたうれしい!」


「そーか?!変な名前・・・ってぇ〜〜〜!!!」

あたしは聖のひざをおもいっきり蹴ってやった。

聖は何もなかったかのように優雅にコーヒーを飲むあたしを見てムカつきながら、

「お前女なんだからもっとおとなしくしやがれ!ったく、そろそろ帰るぞ。」

そう言ってあたしの手をとって店を出た。





「司様、明日の会議の資料です。明日は時間があまりございませんので、

今目をお通しください。それと、こちらは司様がプロデュースした

『field horsetail』の売り上げなどの資料です。」

「あぁ。・・・今からそこに向かってくれ。久しぶりにどんな様子か見る。」

「かしこまりました。」


実は『field horsetail』というカフェは1年前に司がプロデュースした店だった。


司の乗ったリムジンが店に着くと、店の前には同じようにリムジンが止まっていた。

司はそれに気がつくと、取引先の人などに会ったらめんどうだと考え、

わざと店の裏から入って行った。



しかしそれと同時に聖とつくしは店を出てリムジンに乗り込んだ。

つくしもすぐそばに止まっているリムジンを見つけ、

どこかで見たような気がしたが、深くは考えずにそのまま帰った。






vol.8

一週間なんてすぐに過ぎてしまうもので、ついに約束の日が来た。


5時になると聖が頼んでおいたのか、プロのスタイリストさんが来てセットしてくれた。

セットが終わり、すごく綺麗ですと言うスタイリストさんや佐々木さん達に照れ笑いをしながら

自分の姿を鏡で見ていると電話が鳴った。ディスプレイには聖の文字。


「どうだ?変身したか?!」ふふんっと笑っているので、


「もうっ!こんなことしなくてもよかったのに!!」


「素直じゃねぇな〜。それより大丈夫か?!あんまり無理すんなよ。

あと、門限は忘れんな。10時までだぞ?!

まぁ今回は挨拶がてら俺が10時になったら迎えに行くから。」


「・・・なんか厳しい親みたい・・・」


つくしがボソっと呟くと、

「両親が側にいないんだから、兄である俺が嫁入り前の大事な妹を守るのは当たり前だろ!」

と、偉そうに聖が言った。


「はいはい、お兄様。それじゃぁもう行くから。」そう言って電話を切った。


あたしは自分に大丈夫!!っと言い聞かせ、リムジンに乗って花沢類の家に向かった。






類の部屋にはすでにあきら、総二郎、滋、桜子が待っていた。


「この部屋はなんでこんなにも殺風景なんだよ。ソファーぐらいいい加減置けよ。」

ベッドに腰をおろしながら総二郎が言う。次に窓にもたれているあきらが、


「ふつー婚約者を紹介するっつったら、ダイニングで食事しながらとかじゃねーのかよ?!」と言う。

「いいじゃん別にぃ〜。類君の婚約者ならこれから仲良しになるんだしぃ〜。

あきらは律儀すぎんのよ!!」


「滋さんは考えなさすぎですけどね。」


この3人のツッコミ合いに類と総二郎はあきれていた。

ちょうどその時、使用人がやって来て

「宮川様がいらっしゃいました」と言った。


すぐに類以外の4人の顔が期待と緊張の入り交じった顔になり、じっと扉の方を見つめていた。


そして・・・コンコンとノックの音が聞こえ、どうぞと返事をすると、

失礼しますと言ってドアが開いた。


その瞬間、4人はその人物を見て固まっていた。

類はつくしの側にいき、

「紹介する。宮川財閥の令嬢、宮川つくし。どぉ?

期待通り美人でしょ。ほら、挨拶して。」


「あっえっと、どうも宮川つくしで・・・うっ!!!」

あたしの挨拶は滋さんと桜子におもいっきり抱きしめられたことによって遮られた。


「つくしぃ〜!!!今まで連絡もしないでどこに行ってたのよぉ〜〜!

すっごくすっごく心配したんだよ!!!でもまた戻ってきてくれてうれしぃ!

もうどこにも行かないで!!!」


「先輩〜〜!!!もうホントにいっつも人騒がせなんだから!!

なんかあったら私たちを頼って下さいって言ってるじゃないですか!!!」


「うん・・・ホントに今までごめんね。もうみんなに黙っていなくならない。

約束する。心配させてホントごめんね。」


そう言って抱き合いながら3人とも泣いていた。


「牧野・・・ホントその放浪癖どーにかしろ!

迷惑かけたと思うんだったら、2度と俺らの前からいなくなるなよ!」

憎まれ口をたたきながら、顔はうれしそうな総二郎。


そしてあきらが、

「まったくだ。頼むから俺らの仕事を増やすな。けど、お前本当に牧野か?!

磨けば輝くとは思ってたけど、ここまで輝くとは・・・詐欺にあったみたいだ。」

その言葉に納得したように総二郎が続ける。


「ホント詐欺だな。こんなふうになるんだったら口説いとけばよかった。」


ウンウンとうなずいている2人を見て、つくしは失礼なっと頬を膨らませた。

そんなつくしに桜子は、

「でも先輩・・・『宮川』ってどういうことですか?」と言った。


あたしは今までのことをすべて話した。


話し終えた後、みんなの顔には悔しさがあふれていた。

みんなの言いたいことはわかってる。

あいつと付き合っている時にわかっていれば・・・きっとみんなそう思ってる。


そんな事、何百回考えただろうか・・・。


けどこのことはもう3年前に理解した。


あたしはみんなが言う前に話し出した。

「あたし別に誰も恨んでないよ。これは運命だったんだよ。ちゃんと納得してる。」

そう言ったつくしの顔は切なく悲しみに満ちたものだった。


それに気付いた類は、

「もしも・・・もしも司がまだ牧野のこと好きだったら・・・?」


類の言葉に4人ともはっとして、この前の司の言葉を思い出した。


司は今でも牧野のことが好きだ・・・それに司のお母さんは牧野と結婚をさせたがってる・・・


みんな同じことを考えてたらしく、顔を輝かせた。

あたしは訳が分からないと困惑した表情をうかべたが、 類がまたこれからもよろしくっと言って笑ったのを見て、笑顔になった。


「じゃぁ久しぶりに会ったんだし、滋ちゃんの別荘に行かない?!」

と、滋さんが唐突に言い出した。


「いいですね。私も行きたいです」

「そうだな。ここは何もねーし。」

「牧野も行くよな?」


みんなはすでに乗り気だ・・・でも門限は10時・・・ってもう10時じゃん!!


「ん〜ごめん。あたしは帰らなきゃ。迎えが来るの。ホントごめんね?!」

「えぇ〜〜?!つくし行かないのぉ〜?!つくしがいないとイヤだぁ〜!!!」


ダダをこねる滋をあきらが必死になだめていると、使用人が来て、

「宮川様のお迎えがみえています。」

と言うので、しかたなく別荘行きはあきらめ、つくしを車まで見送ることにした。







vol.9

出てきたあたし達に気付いた聖は、

「遅いっ!!10時すぎてるぞ!」と、機嫌悪そうに言った。


「10分ぐらいでごちゃごちゃ言わないでよ!もうっ!」

そう言ってあたしが怒ると、今度は優しい目をむけて、


「大丈夫だったか?」と心配そうに聞く。


「うん、大丈夫だよ。心配かけてごめんね。」


あたしが微笑むと聖も微笑んで、あたしの額にキスをした。




宮川聖・・・オレらの4歳年上ですでに宮川財閥副社長。

高校ですでに経営のノウハウを学び、ロンドンの大学を3年で卒業。

大学在学中に重役のポストにつき、今にいたる。

迅速かつ感情にとらわれない冷静な判断力、分刻みでスケジュールをこなし、

どこか影がありそうな魅力のある整った顔立ちが人を惹きつける。

司と共に注目されている青年実業家だが、はっきり言って司より優秀な人材。

そんな俺たちジュニアには鏡とも思われる人間が一人の女を迎えにきて、

昔の司と牧野のようなじゃれ合いをし、額にキスまでした。



どういうことだよ・・・



あたしはキスをされて真っ赤になりながらみんなのほうをチラっと見ると、

みんながかたまっているのでとっさに聖を紹介しようとしたら、

聖がみんなのほうへ歩み寄り、挨拶をした。


「どうも初めまして、宮川聖です。

皆さんのご活躍は存じています。つくしとは昔からの友人でいらっしゃると聞き、

ご挨拶にうかがいました。来週の月曜日から英徳につくしも通うことになりましたので、

どうぞよろしくお願いします。」


すると滋さんが飛び跳ねてよろこび、あたしにおもいっきり抱きついてきた。


「やったぁ〜つくしも英徳にくるんだ〜!あたしも大学から英徳に通ってるの!

だからこれから毎日会えるじゃん!!うれしい〜!!!」


「しっ滋さん・・・ぐるっしいっ・・・」

慌てて桜子が引きはがす。


「それでは私たちはこれで帰りますので、失礼します。つくし、行くぞ。」


「あっはい。それじゃぁみんな今日はどうもありがとう。

また月曜日からよろしくね。それじゃぁ。」







「宮川聖か・・・。どーみても牧野を見る目が兄妹っぽくねぇんだけど、

そう思うのは俺だけか?!」


つくし達が帰った後、類の部屋に戻った5人は心配していた。


「俺もそう思う。おまけに司と少し似た雰囲気もってるしな。

まぁ牧野が全然気付いてないのがせめてもの救いだな。

早いとこ司と牧野を会わせないとまた問題がおきそうだ。」


「じゃぁいつ会わせるの?!」


「滋さん、決まってるじゃないですか。来週には恋人達の一大イベントがあるじゃないですか。」


「そういうこと!」


「やーん!なんかこういうの久しぶりで気合い入るね!!

滋ちゃんがんばっちゃうわよぉ〜!!!」


こうして5人は作戦をたて始めた。類は半分寝ながらだったが・・・。






「聖、大学の手続きとかいろいろありがとう。みんな素敵になってたけど、

中身はかわってなくて、またあたしを受け入れてくれた・・・。

すごくすごくうれしかった。」


あたしは助手席に座って窓の外を眺めながら言う。


「よかったな。まぁお前のこと大切に思ってくれてるとわかって安心した。

・・・・あいつのこと思い出したか?」


あたしは視線を窓の外にうつしたまま少し切なく笑った。


「いつもあいつのこと思い出してるからなぁ〜・・・

でもみんなとしゃべってた時、なんだか『わりぃ〜遅くなった』って言いながら

あいつがあらわれそうな気がしたの。ふふっ・・・重症だねあたし。」

そんなつくしを見て聖は胸が苦しくなった。



お前が過去から解放されるのはいつなんだ・・・


俺がいる・・・俺がお前を支える・・・



「つくし、来週のクリスマス・イヴは休みとったからどっか少し遠出するか。どこ行きたい?」


「ん〜・・・ロンドン!!・・・は、さすがに無理だからなぁ・・・聖にまかせるよ。」


笑ってはいるが、瞳の奥はひどく悲しみをうつしているつくしをもう見ていられなくなり、

急に車を道路脇に寄せると、そのままつくしを抱き寄せる。


「・・・聖・・・?!」


「泣きたい時は泣け。俺の前で無理するな。俺が支えるから・・・」



愛してる・・・ホントはそう言いたい・・・


けど今そんな事を言ってしまったらお前は壊れるだろう・・・


だからこのままずっと俺の腕の中に・・・



あたしは広い聖の胸に顔を埋め、聖のスーツを強くつかんだ。


「・・・好き・・・好き・・・3年も前に別れたはずなのに・・・

忘れなきゃいけないのに・・・でも好きな気持ちは昔より増すばかり・・・

この気持ちをどーしようもできなくて・・・」

そう言って泣き崩れた。



こんな風に泣き崩れるのは1年ぶりで、


彼女はこんなにもためこんでいたんだと思って切なくなった・・・


こんな風に泣かせるあいつをどうしても許せなかった・・・





NOVEL