vol.10
月曜日・・・あたしは今懐かしい場所に立ってる。
いつものように聖と一緒に送ってもらった。
けれど行く場所は白川学院大学ではなく、昔通い慣れた場所・・・英徳。
「つくし・・・本当に大丈夫か?!もう少しなら一緒にいられるから、
中までついて行こうか?」
聖は心配そうにあたしの顔を覗き込む。
聖は極度の心配性だなと思って笑う。
「シスコン。大丈夫だってば!この前泣いたせいで元気いっぱいよ!!
ホラホラ副社長さん!今日から1週間パリに出張でしょ!早く行きなさいよ!」
「クリスマスどっかに連れてくって約束したのにごめんな。ちゃんとプレゼント送るから。
帰る日はお前のバースデーパーティーの日だから、ちゃんとパーティーの時間には間に合うようにする。」
「うん、それじゃぁ仕事がんばってね。」
聖はつくしの頬にキスをすると空港へ車を走らせた。
まずはあそこに・・・
あたしは大学の敷地とは反対の高校の方へ歩き出した。
ガチャ・・・その場所に辿りついた彼女はその場に座り込んだ。
変わってない・・・あの頃と同じ・・・
「ここは変わんないよ。」
ふいに後ろから声がして、振り返るとそこには優しく微笑んでいる花沢類がいた。
「あっ花沢類。なんでここに?」
「ここは俺の一番落ち着く場所だからね。それに絶対一番最初にここに来る気がした。
非常階段は牧野にとっても特別な場所でしょ?」
「ふふっ・・・やっぱりここに来ないと戻った気がしないじゃない?!」
そう笑った彼女に類は手を差し出す。
「お帰り。行こう、みんなが待ってる。」
「うん。」
あたしは花沢類の手をとって歩き出した。
「ねぇ〜つくし遅くな〜い?!類君も遅いし〜〜。」
大学のカフェテリアでは滋が落ち着きなくウロウロしていた。
「お前が来るの早すぎなんだよ!芽夢と絵夢と一緒に起こしにきやがって。
花嫁修業の前にもう少しおしとやかになれ!」
眉間を指で抑えたまま疲れてた顔をしているあきらを見て、桜子はため息をついた。
「美作さん、滋さんがおしとやかなんて無理に決まってるじゃないですか。
それに今から一緒に住んでると耐えられなくなりますよ?!」
「ちょっと桜子どーゆー意味?!」
「このバカトリオの相手すんのやだ・・・早く類と牧野来ねーかなー・・・」
ギャーギャー騒ぐ3人の側で、ため息をつきながら総二郎は呟いた。
ちょうどそこに類とつくしが現れ、助かったと思う総二郎だった。
「や〜んつくし〜!!!今日もすっごくかわいい〜〜!!!」
今まで桜子に反論していた滋だったが、つくしを見つけるとすぐに駆け寄り抱きついた。
「滋さんのほうが綺麗ですよ!まったくも〜そんなお世辞言っても何も出ませんよ?!」
「先輩・・・鈍感は直らないんですね・・・これからも苦労しそう・・はぁ。」
首をすくめる桜子に対して何がなんだかわからないつくし。
「まぁ鈍感でこそ牧野だな。」
意地悪そうに笑う総二郎。
「つくし!最初の講義あたしと一緒だから行こ!」
そう言って滋さんはあたしの手を引っ張って歩き出した。
「それじゃぁみんなまた後でね!」
滋と楽しそうに歩くつくしを見て、みんなは目を細めた。
「それじゃぁ私も講義があるので、のちほど。」
桜子は文学部なので、経営学のみんなとは講義の棟がちがっていた。
F3は朝一番の講義はとっていないので、朝は家で寝ているかカフェテリアにいるかだった。
「牧野ってさ、ちゃんと自分のことわかってんのか?!まだ社交界デビューしてないからいいけど、
20歳の誕生日でデビューなんだろ?!まちがいなく社交界の華になるぞ。
おまけに宮川財閥だし。これまでどうやって男の誘いを断ってきたんだろうな。」
「そりゃーあの宮川聖が守ってきたんだろ。白川学院での噂だと、2人は恋人同士みたいなんだとよ。
これを司が知ったら宮川と直接対決だな。・・・類は参戦するのか?!」
急に総二郎に聞かれ、少し驚く類。けれどすぐに天使の笑顔になる。
「どんな事情があったにしても一度手放したんだ。その責任はとってもらうつもり。
・・・本当は会わせたくないのかも・・・。だけどあいつのちゃんと笑った顔が見たいから、
司と会わせなくちゃいけないんだよ。まぁその後のことはわかんないけどね。
総二郎とあきらは?」
急に返されて動揺したのか、飲んでいたコーヒーをふきだす2人。
「汚いなぁ・・・知らないとでも思ったの?!あきらはともかく、
総二郎はあいつがいなくなってから夜遊びしなくなったでしょ。」
「俺は・・・わかんねぇ。司が誰よりもあいつのことを好きなのはわかってるし、
あいつも今でも司の事を好きなのはわかってる。
だから自分でどーこーしようなんて考えたことねぇよ。」
「まっあいつら次第ってとこだな。」
vol.11
「滋さんってやっぱり有名人なんですね。」
「えっどうしてよ?」
90分の講義を終えて、カフェテリアに向かうつくしと滋。
「だってさっきからいろんな人が滋さんのこと見てますよ。」
「これはあたしじゃなくてつくしを見てるんだよ。いつもこんなんじゃないもん。」
つくし達とすれ違うたびに足を止めて振り返る人々。
すべての人がつくしの美しさに見入っていた。
するとそこに見知らぬ男2人が話しかけてきた。
「ねぇねぇ名前なんて言うの?」「ちょっとあっちでしゃべろうよ。」
げっナンパじゃん!!
あたしがつくしを守らなくちゃ!!!
「悪いけど今そんな暇じゃないから、他行って!」
滋さんはあたしの手を取り立ち去ろうとするが、2人とも腕をつかまれてしまった。
「いやっ離しなさいよ!!!」「離して!!!」
2人とも抵抗するが、男の力にかなうはずもなく連れていかれそうになる。
が、急に男2人の手が離れた。
「あきら!!」「花沢類!西門さん!」
男2人の前にはF3が立っていた。
「おい、こいつが俺の女だって知っててやってんだろうな?!」
「悪いけどこっちは俺の婚約者だから。」
「最近さぁ〜暴れる単純バカがいなくて張り合いなくてさ〜。」
3人とも笑顔なのにすごい威圧感。
さすがF4・・・。
男2人はすぐに走り去っていった。
「お前らな〜もうちょっと注意しろよ。特に牧野!お前は一人で絶対歩くな!」
「なんでよぉ〜前の学校では大丈夫だったんだから大丈夫よ!!」
「前は宮川聖がなんとかしてたんだよ。ちょっとは気付け!」
あきらと総二郎は深いため息をつくので、少しつくしも落ち込んでしまった。
すると類がつくしの頭をポンポンと軽くたたいて微笑んだ。
「みんな牧野のこと心配してるんだよ。だから心配かけないためにも気をつけて。
それに宮川聖にも頼まれてるしさ。」
「・・・うん、わかった。気をつけます。」
類の笑顔を見てか、すんなり聞くつくし。
「お前類の言うことは聞くのかよっ」
わざとため息をつくあきら。
「それより、お前クリスマスイヴの日空いてるか?っつーか空けとけ。」
「えーっと・・・クリスマスイヴの日は外出するなって言われてるんだけど・・・」
その言葉に驚く一同。
「・・・まさかとは思うけど、それは宮川聖に言われたとか・・・?!」
「うん。本当は聖と一緒にどっか行く予定だったんだけど、急にパリ出張になっちゃったから、
家にプレゼント届けるから外出するなって。」
「・・・まさに箱入り娘だな・・・」
総二郎は眉間をおさえてうつむく。
「ねぇ、滋ちゃんたちとクリスマスパーティーやるって言えば大丈夫じゃない?!
お願い、つくし!あたし一緒にクリスマスパーティーしたぁい!!!」
「んー・・・じゃぁ聖に聞いてみる。ちょっと待ってて。」
あたしは聖のPCにメールを送る。
「よっし、送った!・・・・・・って返事はやっ!!・・・なんでよ!!」
もちろん却下のメール。あたしは再びメールを送る。
そして10分後、ようやく聖から許しをもらった。もちろん条件付きで。
門限は10時まで。車で送迎してもらうこと。飲み過ぎないこと。家についたら電話をすること。
「やったぁ〜〜これでクリスマスイヴは一緒に過ごせるね〜!!!」
飛びはねんばかりに喜ぶ滋をあきらは落ち着かせながら、
「お前らパーティー用のドレス買ってこれば?おっちょうど桜子も来たし行ってこいよ。」
桜子は総二郎に話の流れを聞いて行く気満々になっている。
「あたしドレスいっぱいあるからいいよー。もうみんなからプレゼントされたものがいっぱい。
一生のうちに1回着れるか着れないかっていうぐらいあるんだから。」
そう言って断るつくしに対して、
「先輩!!3年ぶりにみんなでパーティーするんですよ?!特別な日なんだから、
とびっきりのを着なくちゃ!!!」
と、なんとか説得させた桜子は、つくしにバレないように他のみんなにウインクをしていた。
「よぉ〜し!!それじゃぁ行くわよぉ〜!!もう車呼んでおいたから!」
そう言って滋はつくしの右手を、桜子は左手をつかんでショッピングにむかった。
「それじゃぁこっちは司をなんとかしなくちゃな。たしかあいつイヴの日は6時半まで仕事っつってたから、
大丈夫なはず!よっしゃぁ!!さっそく誘わなくちゃな〜。類、電話しといて。」
「なんで俺なの?!いやだよ。総二郎やって。俺寝るからさ。」
結局総二郎が電話をしたのだった。
vol.12
「ね〜このお店にしよ!!」
「そーですね。なんかここ先輩のイメージにぴったりですね。
たしか最近すごく人気のお店ですよ。」
どんどん進む滋さんと桜子に置いて行かれないよう必死でついていくつくし。
「いらっしゃいませ・・・あっお久しぶりです宮川様。
今日は何をお探しですか?新作はこちらになっております。」
いきなりVIP待遇のつくしに驚く2人。
その様子に気がついたつくしは少し頬を赤らめる。
「実はこのお店、聖があたしをイメージとしてつくったお店らしいの。」
その言葉に唖然とする2人。
「・・・どおりでつくしのイメージにぴったり・・・」
「先輩のために一流ブランドをたちあげるなんて・・・」
かたまったままの2人をよそに、つくしは店員に訪ねる。
「え〜っと、今日はクリスマスパーティー用のドレスを探しているんですが。」
やっと思考回路が戻った2人はもうすぐだからと自分自身に言い聞かせ、
つくしと一緒にドレスを選んだ。
「イヴの日にパーティー?!こっちは仕事が山積みで時間とれるかわかんねぇんだよ!」
電話の相手に向かって大声を出しているのは司。電話の相手は総二郎。
「せっかく久しぶりにみんな集まるんだからなんとしてでも来い!!
それに類の見合い相手も見たいだろ?!」
「んなもん興味ねーよ!!」
「とにかく7時にメープルの最上階の部屋だからな!そうそうクリスマスなんだから、
ちゃんとプレゼント持ってこいよ。こっちはすげーの用意してあるからよ!」
得意げに話す総二郎に青筋をたてる司。
「なんでプレゼント交換みたいなことしなくちゃなんねぇんだよ!アホか!!」
そう言って、勝手に切ってしまった司。
「・・・あいつ勝手に切りやがって・・・まぁいいか。たぶん来るだろ。よっしゃ完璧!!」
それから数日後の23日にお母様から電話があった。
「つくし、花沢さんとの婚約どうするの?聖が明日つくしは花沢さん達とパーティーをするって
言ってたから、もう決めたの?」
・・・えぇっ?!!あたしと花沢類が婚約?!
あのお見合いはただあたしを昔の友人に会わせようとしただけじゃないのぉーーー?!!
「おっお母様?!私と花沢類はそういう関係じゃないのよ?!ちゃんとわかってる?!」
「あらっどうして?あんなにかっこよくてイイ人なのに。
お母さんは花沢さんにならつくしを嫁がせてもいいかしらって思ってるのに。お母さんは彼がいいわ!」
なんでお母様の好みで決めてんのよぉーーー!!!
「とにかく、結婚相手は自分で決めるの!あと花沢類とはそーゆー関係じゃないの!」
結局両者一歩も引かずに電話を切った。
花沢類と結婚なんて考えれるわけないじゃない。
だって彼と結婚したらあいつと会う日が来る。
その時あたしはきっと彼と結婚したことを後悔するから・・・
道明寺・・・あんたにもう一度会えたら、今度は絶対に離れたくないのよ・・・
そして24日クリスマスイヴ。
なんでメープルでパーティーするわけ?!ちょっとは気を使いなさいよ!
はぁ・・・最上階か・・・
数日前の総二郎の電話。
「クリスマスパーティーの場所はメープルの最上階だからな。7時にちゃんと来いよ。
まずそこに俺らからのクリスマスプレゼントを置いとくからさ。
いいか?!その30分後には俺らが部屋に行くからな!
30分後だぞ!!そんじゃぁな。」
・・・そんじゃぁなって意味わかんないわよー!!!30分後って何?!もうわけわかんない!!
そういうわけであたしは今メープルの最上階の部屋のドアの前に立ってるの。
そしてベルを鳴らした。
・・・よく考えたら誰もいないんだから入ればいいのか。
あたしはドアを開け、中に入って行った・・・。
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