vol.19
驚いたままドアのところで突っ立っていると、お父様がこちらに座りなさいと促した。
訳がわからない・・・なんで司と魔女がいるのよ?!
大事なお客様ってこの2人?!
困った顔で司を見ると、俺もわからないというように首をすくめた。
少しの沈黙の後、魔女が口を開いた。
「どうもご無沙汰しておりますわ、宮川会長、ご夫人、そしてつくしさん。
お元気そうでなによりですわ。」
「こちらこそご無沙汰しております・・・。」
魔女があたしにむかって微笑んでる・・・こわい・・・
「こっちは私の息子の司です。」
「初めまして道明寺司です。宮川会長のご活躍は存じております。
お会い出来て光栄です。」
「あぁ、どうもありがとう。司君のこともよく聞いてるよ。昔つくしがとても世話になったみたいだね。
・・・今日来てもらったのは、つくしの事でなんだがね。
君たちは3年前に別れた。・・・しかし先日再会した。
司君、君は今つくしのことをどう思っているんだい?」
なんであたしたちの事なの?!・・・もしかしてまた反対される?!
つくしが口を出そうとすると、司がそれを遮った。
「私の気持ちは昔とかわりません。昔の私はしっかりとつくしさんを守るきれずに
傷つけてしまった。しかしこの3年間、彼女を迎えにいくために力をつけてきました。
もう昔のような間違いは二度としません。私は二度と彼女を離したりはしない。
私の人生のパートナーとして側にいてほしいと思っています。」
「司・・・」
もう胸がいっぱいで今にも涙があふれそうだよ。
お父様と司が目を合わせて沈黙が続く・・・
あたしはお父様がしゃべるのを待った。そして、
「・・・君の気持ちはよくわかった。つくしの事を本気で想ってくれてありがとう。
・・・結論から言うよ。・・・司君とつくしの交際は認めない。」
「なっ・・!!」
「どうしてっ・・?!」
どうして認めてくれないのよ・・・
「”道明寺″が昔つくしに何をしてきたか全部知っている。あんなに自分の娘をボロボロにされたのに、
その道明寺へ嫁にやるなんてできない。今後、友達同士としての付き合いはいいが、
勘違いをされるような言動は許さない。」
有無を言わせない威圧感・・・やっぱり世界の宮川のトップはハンパじゃねぇ・・・
くそぅ・・・けどあいつをあきらめるなんてできねーんだよ!!
司が何かを言おうとしたのと同時につくしが立ち上がった。
「どうして・・・どうして反対するの?!この3年間あたしは暗闇の中でずっと一人だった。
司に会いたくて会いたくて・・・あの頃はボロボロになってでも貫きたい想いがあったのよ!!
あたしはこの3年間のほうがつらかった・・・
お願い・・・あたしから司をとらないで・・・あたしには司しかいないの・・・。」
そう言って泣き崩れた。
司はすぐにつくしの側に行き、そっと抱きしめる。
「すいません、こいつを部屋に戻らせます。つくし、行こう。」
つくしが小さくうなずくと、司はつくしの手をとってつくしの部屋へむかった。
vol.20
つくしの部屋に入るやいなや、司はつくしにキスをする。
つくしは驚いて、抵抗することさえ忘れていた。
やっと唇が離れると、司はつくしの髪に顔を埋めた。
「お前かわいすぎ・・・我慢できなくなるっつーの。」
「なっ何考えてんのよ!バカ!!」
顔を真っ赤にして離れようとするつくしを、もっと強く抱きしめる。
「俺だってお前しかいねーよ。何としてでもお前の親を納得させるから、
ちょっとの間ここで待ってろ。」
つくしはまた少し涙目になって、司の首にしがみつく。
「ちゃんと戻って来てよ・・・」
また離ればなれになったらあたしはもう生きる事ができない・・・
司のいない人生を再び歩むことはもうできないのよ・・・
俺が親達のいる部屋に戻ると、つくしの母親がつくしは大丈夫かと心配そうに聞いてきた。
「あいつは落ち着いたので大丈夫です。・・・交際のことですが、
やはりあきらめることはできません。俺にもあいつしかいないんです。
俺とあいつのこと認めてください。」
そう言って頭を下げた。
俺はビジネスでもこんなふうに頭を下げたことはない。
だけどあいつとの事はどーしても譲れないんだよ。
すると、今までずっと口を出さなかったババアが突然口を開いた。
「宮川会長、私が昔つくしさんにしたことは、今考えれば愚かな事です。
おそらく私は彼女に嫉妬していたんだと思います。司の荒れた心を彼女が癒した。
母親である私ではなく彼女が司を救ってくれた。あの頃2人をボロボロにしてしまったのは私のエゴです。
本当に申し訳ない事をしたと思っています。
つくしさんと引き離してしまった後の司はまるで感情のないロボットのようで、
誰にもどーすることもできませんでした。やはり司にはつくしさんが必要なんです。
だから私からもお願いしますわ。2人のことを認めてあげて下さい。」
俺は驚いた・・・あのババアが俺たちのために頭を下げてる・・・
初めて母親の顔を見た気がする・・・
宮川会長はふぅっと息を吐くと、頭を上げて下さいと言った。
「・・・参りましたね。鉄の女とまで呼ばれたあなたがここまでするとは・・・。
おまけにつくしがあそこまで泣いて君を必要としている。
・・・わかったよ、私たちもつくしの幸せを願っているんだ。
だから2人の交際は認めよう。だが結婚は認めないよ。
君もつくしもまだ学ぶべきことがたくさんある。それに君のすべてを認めたわけじゃない。
司君、大きな男になって世界を認めさせてみせなさい。」
結婚は認めないか・・・けどとりあえず認められたんだ・・・
絶対に結婚を認めさせてみせる!!!
「そこでなんですがね、楓社長。つくしを預かってもらえないですか?
実はつくしが20歳をむかえたら、聖の秘書として仕事をさせるつもりだったんですが、
きっとあなたのもとで仕事をさせたほうがいいかと思うんですが、どうでしょう?」
「そうですね、将来的に道明寺に嫁ぐ可能性があるのですから。
わかりました。けれど、私はNYで大切な会議がありますので、
まずは司の秘書としてつくしさんには勉強してもらいます。よろしいでしょうか?」
「えぇお願いします。司君もそれでいいかな?!それと、2人のことはまだ内密に。
マスコミに騒がれるようなことは避けたいんでね。つくしには偽名で秘書をしてもらう。」
なんかすげーことになってる気がするんだがな・・・
まぁ俺の秘書なら毎日会えるしいいか。
とりあえずわかりましたと言うと、急に部屋の扉が勢いよく開いた。
vol.21
みんなが驚いてドアのほうを見ると、そこには険しい顔をしたつくし。
そしてあいつはひと呼吸おくとしゃべりだした。
「お父様、お母様。司はどーしようもないくらいの単純バカで、すぐ怒るしすっごいヤキモチ焼きだし、
わがままだしひねくれてるけど、ホントはすごく優しくて、あたしの事を一番に考えてくれてるの。
あたしはそんな司が好き。今もこれからもずっとかわらない。
もしこれでもあたしと司を引き離すつもりでも、あたしはまた前みたいに
ボロボロになってでもこの想いを貫きます。だからお願い・・・司とのこと認めて・・・」
最後のほうは少し涙声になってしまった。
でもこれがあたしの気持ちだから。
司を見ると、顔を真っ赤にさせて動かない。
もぉ〜〜〜今は恥ずかしがってる場合か!!!
あんたもなんか言いなさいよぉ〜〜〜!!!
少し睨んでると、みんながクスクス笑ってた。
何?!なんでみんな笑ってるの?!
あたしがオロオロしているとお母様が微笑みながら言った。
「つくしは本当に司君のことが好きなのね。
ふふっ・・・お父様は認めてくれたのよ。よかったわね。」
「へっ?!!」
あまりにも予想外だったので、素っ頓狂な声を出してしまった。
「楓社長にも頼まれてしまったし、2人を引き離そうとすると私からつくしが離れてしまいそうだしね。
いいかい、交際は認めるが結婚は認めない。それで、つくしは来週から司君の秘書として
働いてもらうよ。もちろん大学の方も単位を落とさず今の成績をキープしたままだ。わかったね?」
お父様が言い終えた瞬間、あたしはお父様に抱きついて頬にキスをした。
「ほんっとーにありがとう!!すっごくうれしい!!
あたしがんばるから!!お父様大好き!!!」
「まったくこの子は人前で・・・司君、君も苦労するな。
おっともうこんな時間だ。私はまだこれから仕事があるんで失礼するよ。」
「私もまだ仕事がありますので失礼させていただきますわ。
司さん、5時から会議だから忘れないでちょうだい。
それではつくしさん、明後日にメープルホテル社長室に来て下さい。」
あの魔女が少し微笑んでいた気がするのは気のせいかな・・・
でも私たちのこと頼んでくれたって・・・
「あの、おばさま!!・・・どうもありがとうございます。
これからもよろしくお願いします!!!」
そう言うと魔女は少し振り向いた。
「覚悟してちょうだい。厳しいわよ。」
それだけ言うと車に乗り込んでいった。
・・・やっぱり微笑んでた。
NOVEL