独占欲・前編
司と結婚して2年。
とてもとても幸せで、毎日がすごく充実してる。
彼はすごく忙しいけれど、どんなに遅くなってもあたしのために帰ってきてくれる。
でもたまにそれが彼に負担をかけてるんじゃないかって不安になる。
本当は会社で休んだほうが楽なんじゃないかって思う。
それでも帰ってきてくれる彼は、本当に自分のことを愛していて、
大事にしてくれているんだと思ってた。
最近までは。
最近は・・・なんだか変。
やけに気を使ってくるというか、前まではどんなに遅くても一緒のベッドで寝ていたのに、
急に、あたしを起こすと悪いからとか言って、今は別々。
いつも司はあたしがいないと眠れないって言ってたじゃん・・・
前までは仕事に行く前はかならずキスをくれたのに、今は大きな手であたしの頬をなでるだけ。
いつも司はあたしにいってきますのキスをしないと仕事に行きたくないって言ってたじゃん・・・
あたしの頭に浮かぶのは・・・
司の裏切り
彼に限ってそんなことは・・・ううん、司だって男だもん・・・
だけど司が浮気だなんて・・・
「先輩、バカじゃないですか?!私みたいなこんなかわいい子を振ってまで、
先輩と結婚したんですから。浮気なんてありえません。」
桜子・・・言い切ってくれるのは心強いけど、何か引っかかる発言だわ・・・
「そうだよー!司はつくし一筋だもん。忙しいだけだよ!」
滋さん!!やっぱり滋さんはあたしの味方だよね!!
「だってつくしみたいに何でもやれる奥さんを手放したら、
次の奥さん決めるとき大変だしね!」
・・・滋さん・・・あたしは家政婦じゃないんですけど・・・はぁ・・・
この2人に相談したあたしがバカだった・・・
週三回、桜子のお家で行われる滋さんいわく『マダム会』では、
何でも隠さず話す!!というのが掟。
だからあたしは今回のことを話したのに・・・
全然解決しないじゃない!!!
マダム会からの帰り、あたしは散歩したくて歩いて帰ることにした。
今日は何時に帰ってくるかな・・・きっと遅いだろうな・・・女の人と会ってるから・・・?!
だめだ!!!どうしてもマイナス思考になっちゃう!!!
「牧野何やってんの?マジでおかしすぎるんだけど。」
ふいに後ろから声がかけられたので、いきおいよく振り返ると、
そこには口を手で押さえて笑いをこらえている花沢類がいた。
「花沢類!!こんなとこで何やってんの?!・・・って笑いすぎだから!!」
こらえきれなくなったのか、もう声を出して笑っている類に、つくしは怒る。
「ごめん・・・だって道ばたでしゃがんだり立ったり変な動きをしてたからさ。
何やってんのってここ俺ん家だから。ちょっと散歩してただけだよ。」
そう言って類が指を指した場所は、結婚してからも何度か司と来ている花沢家。
あたしずっと考え事してたから気付かなかったぁ!!!
しまったぁ〜・・・ここは道明寺邸とは反対方向だよ・・・
しかも携帯忘れたから運転手さん呼べないし・・・
つくしはまた下を向いて、一人でブツブツ言った後、
類に電話を借りればいいんだと思い、勢い良く顔を上げると、
鼻と鼻がぶつかるぐらいの至近距離に類の顔があった。
あたしはびっくりして動けず、どんどん顔が赤くなるのが自分でもわかった。
「はっ花沢類?!」
思わず声が裏返る。
「・・・なんか甘い香りがする・・・」
・・・へ?!
「あっ今日桜子ん家でケーキたくさん食べたからかな。」
ふ〜んと言ってやっと顔が離れてホッとする。
花沢類・・・そういうことしちゃだめよ。
下手すると心臓発作で倒れるかもしれないじゃない。
「そういう顔されると誤解されるよ。司にも俺にも。」
・・・誰のせいよ!!
彼はあたしの反論なんか無視して、運転手呼んであげるから待っててと言って家に入っていった。
この時のことが大変なことを引き起こすなんて誰が予想しただろうか・・・。
「つくし!つくし!!早く起きな!!大変だよ!!!」
あれから司の態度はやっぱりおかしくて、毎日憂鬱な日を過ごしていたある日、
タマさんにものすごい勢いで起こされた。
「タマさん・・・どうしたんですか?そんなに慌てて・・・」
「これを見な!!」
そう言って差し出されたのは一冊の週刊誌。
眠たい目をこすりながら開かれているページを読むと、どんどん血の気が引いていった。
『道明寺財閥若夫人、花沢物産副社長と不倫か?!!』
そしてそこに写っている写真はあの時のもの。
うまくキスをしているようなしてないようなきわどい角度から撮られていた。
信じられない・・・本当なの・・・?!
だが、つくしが見入っているのは自分の記事ではなく、同じページに載っているもう一つの記事。
『道明寺財閥副社長、高木グループの美人社員と密会!!』
写真は素敵なレストランで食事をしているところ。
記事にはここ最近の司の行動が書かれていた。
あたしはその場にへたり込んでいると、タマさんから受話器を渡された。
それを耳にあててみると、
「つくしちゃん?!タマさんから聞いたわ!!大丈夫?!
とにかくそっちは大変なことになってるからロスへいらっしゃい!!いいわね?!」
お義姉さん・・・ロス?・・あぁ混乱を避けるためね・・・
ショック状態のため、タマや他の使用人の手を借りながら空港へ行くための車に乗った。
車が発進する前に携帯が鳴る。
ディスプレイには司の文字。
「・・・もしもし。」
「つくし?!そっち大丈夫か?!こっちは会社から出れねぇ状態だわ。
お前危ないから外出るなよ!なんとかして帰るから!」
・・・あたし・・・そりゃぁ疑ってないって言ったらウソになるけど、
司は絶対そんな人じゃないって思ってた・・・
信じてたのに・・・
「・・・いい。帰ってこなくていい。」
それだけ言って携帯の電源を切り、車を発進させた。
門の所にいた大勢の報道陣を横によけさせ空港に向かう。
あたしは報道陣のカメラに向かって睨みつけた。
きっとこの中継を見ているであろう司に、悲しみを訴えるつもりで・・・。
NOVEL 後編